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日本みどりのプロジェクト推進協議会 「第4回シンポジウム@長野県山ノ内町」報告書

【1日目(シンポジウム)】
〇日 時:令和5年6月24日(木) 14:30~17:15
〇場 所:山ノ内町「山ノ内町文化センター」
〇参加者:80名(会場)+100名(リモート)=180名


<総合司会>
・日本みどりのプロジェクト推進協議会/事務局 小川 浩司(大阪観光局マーケティング部課長)

<プログラム>

1.主催者挨拶:
阿部 守一 (日本みどりのプロジェクト推進協議会 会長 / 長野県知事)

・日本みどりのプロジェクト推進協議会主催するシンポジウムに大勢の皆様方にリアルおよびオンラインで参加いただき誠にありがとうございます。
・また、このシンポジウム開催にあたりまして、平澤町長はじめ山ノ内町の皆様ならびに関係の皆様に改めて御礼申しあげます。
・本協議会は、日本の貴重な財産である緑を活かした地方創生や、都市と農山村の交流、更には脱炭素社会を進めるという想いで設立しました。今日は、今回ご参加の皆様ともう一度想いと方向性をしっかりあわせて森を守り抜くとともに次の世代へと引き継いでいきたいと思っております。また、明日は、山ノ内町で続いている“ABMORI”植樹活動にも皆様に参加いただこうと思っております。

・本日の「森を知るシンポジウム」ですが、テーマに「豊かな森が生み出す産業へのファーストタッチ」を掲げました。本日は、特別講演として株式会社番匠の田子先生をお迎えし、森や木に対する想いを講演いただきます。その後、森林資源を活かした地域づくりに取り組んでいう方々のパネルディスカッションを行いたいと思っています。このシンポジウムが参加された皆様方にとって、それぞれの地域、立場で取り組んでいかれる森林を活かした活動の参考になればと考えております。
・今後、本協議会として2025大阪関西万博も含めて色々なプロジェクトをより精力的に推進したいと存じますので、皆様のご協力ご支援いただきますよう心からお願い申しあげますとともに皆さんのお力で日本の緑がしっかり守り育てられ、次世代へと繋がっていくことを心から願って、私の開会にあたっての挨拶とさせていただきます。

2.ビデオメッセージ①:
濵田 省司(日本みどりのプロジェクト推進協議会 副会長 / 高知県知事)

・第4回シンポジウムが盛大に開催されるますことを心よりお慶び申しあげます。本協議会の活動目的は、森林面積率88%、全国一の森林県である本県も大変共感するところであります。
・昨年度第3回シンポジウムは、本県で開催いただき、県産材を使用した木造建築群の視察ツアーなどを通して緑に対して理解と関心を深めていただきました。
・今回のシンポジウムでは森林空間を活用した6次産業化の取組や新たな雇用創出を生みだす手法など議論されると聞いておりますが、本県でも林業の振興なくして中山間地域の再生はないという想いで林業振興に取組んでいるところです。

・また、今年は本県出身の植物学者牧野富太郎博士をモデルにしたNHK朝の連続テレビ小説『らんまん』も放映されており、日本全国で緑に対する国民の関心も高まっています。このシンポジウムを通じて緑の対する理解と関心が更に深まり、本協議会の活動がさらに発展することを祈念いたしまして私のお祝いの挨拶とさせていただきます。

ビデオメッセージ②:
平井 伸治(日本みどりのプロジェクト推進協議会 副会長 / 鳥取県知事)

・本日のシンポジウムが盛大に開催されますことを心からお慶び申しあげたいと思います。
・山ノ内町は、あのスノーモンキーで有名な野猿の故郷でもあり、湯田中渋温泉や北志賀など自然にも恵まれたところであります。
・これから開催されます大阪関西万博においても日本の緑の豊かさをツーリズムとして、あるいは様々な資源としてアピールする絶好のチャンスと思います。

・鳥取県から國岡さんがそちらにお越しでございますが、智頭ノ森ノ学ビ舎という皆で学びながら自発型の林業を推進しようと頑張っておられます。今、様々な林業の営みがありますが、やはり若い方々の参入というところが大事であり、かっこいい林業憧れる林業を目指すそうと、私たちのところでもいろいろ工夫しております。子供たちもこの資源の中で、森の幼稚園というものがあり、これも本県や長野県が中心になった活動だと思います。
・本大会を通じまして、私たちの運動がさらに盛んになり、お集りの皆様のご健勝とご多幸、豊かな緑の自然に恵まれますことをお祈り申し上げて、お祝いとさせていただきます。

3.開催地挨拶:平澤岳山ノ内町長(「山ノ内町の取組とABMORIの紹介」)

・ようこそ山ノ内町にお越しいただきました。まだ、就任4カ月ではありますが、地元開催地を代表しまして一言歓迎のご挨拶を申しあげます。
・町名の通り、この町は山に囲まれ、森に囲まれた緑が豊かな、上信越国立公園ユネスコエコパークに代表される雄大な自然環境を有する町でございます。
・今回のシンポジウムがきっかけとなりまして、自然環境やSDGsへの理解が深まり、森林や地域資源を活用した新たな産業や雇用が推進されることを期待するところであります。

・さて、今回のテーマであります「森」といえば、“ABMORI”が当町で代表的な取組になります。今から9年前の2017年、海老蔵さんの呼びかけに賛同された阿部知事や溝畑理事長から植樹会場として山ノ内町の受け入れ可能かどうか打診があり、二つ返事で賛同して始まったものであります。『後世に残そう森・水・いのち~志賀高原から世界へ未来へ~』がイベントコンセプトでこれまで8回の植樹で6万5千本の植樹を行ってきました。明日、参加される皆様は直にご覧いただけます。
・少し町のPRをさせていただきます。観光と農業が基幹産業の町であり、先ほど平井知事様からもご紹介いただきましたが、世界で唯一温泉に入る野生の猿、地獄谷スノーモンキー、この時期は愛らしいベビーモンキーがご覧いただけます。また、1300年以上の歴史を持つ9つの温泉地が連なる湯田中渋温泉郷や私もアルペンスキー選手として参加した1998年長野オリンピックが開催された志賀高原など素晴らしい自然に囲まれた年間400万人が訪れるオールシーズンリゾートであります。
・今回のシンポジウムが関係者の皆様にとって実りの多いものとなり、皆様の地域の森が益々豊かになることを祈念してご挨拶とさせていただきます。

4.趣旨説明:
溝畑 宏(日本みどりのプロジェクト推進協議会副会長兼事務総長/大阪観光局理事長)

・我々、日本みどりのプロジェクト推進協議会のミッションは、世界有数の自然と多様な生き物との共生であり、日本が持っているものを世界に広めていくことにあります。
・まず、日本人一人一人が意識を持つこと。そしてこれを持続させるためにしっかりマネタイズしていく、お金が回っていく仕組みを作っていくということ。最終的に世界中に広げていくことを3つの理念に、「学ぶ」「増やす」「生かす」「伝える」を4つのテーマにしています。
・林業という森を生業とされる方は、6次産業化を進めていただきたいと考えています。森や緑を中心に新しい産業のフィールドはスポーツや、レジャー、環境、健康、美容、建築など非常に多岐にわたり、観光立国、地方創生、新しい産業のイノベーションに繋がっていくということであります。

・一方で、2つの大きな課題があります。1つは、日本の緑化率は世界で第2位と言われておりますが、大都市部、例えば、大阪は一人当たりの緑地面積がわずか5㎡、東京は11㎡です。シンガポールが66㎡、台北が50㎡、ソウルは23㎡ということで日本の大都市の緑が大変少ないということであります。都市魅力を高めるという意味でも緑化を進めて行くことは喫緊の課題と考えております。
・2025大阪関西万博を目前に控えております。万博のテーマは、いのち輝く未来のデザイン。私はまさにこの森、日本が持っている本当に素晴らしいこの伝統文化と言える森の文化、これこそが世界に伝えるべきものではないかと思っております。これにつきましては、万博協会とも前回の太陽の塔の次のシンボルが木のリングになります。もう一つが静けさの森です。これも万博後にも残すように日本みどりのプロジェクト推進協議会として万博協会に要望書を提出しております。
・本協議会の万博以外のプロジェクトで、GoGreenプロジェクトではコロナで自然志向が高まり一人一人が緑を体感するという仕掛けを強め、OneGreenプロジェクトでは日本サッカー協会と協定を結び国内に芝生を広めるOneGrass運動との連携を模索し、GreenRecoveryプロジェクトではGreenを中心としたスタートアップ、若い経営者、林業者が生まれるようにバックアップし、National Parkプロジェクトでは、規制緩和による観光・スポーツ施設の開発を支援するなど進めてまいります。
・今後も、世界に向けて、日本の森のスポーツアクティビティをPRする、日本の美しい森を守る文化を伝えていく、SDGsを実現して新たなビジネスを作っていく、この3つのことを中長期的に進めていきたいと考えております。

5.特別講演:
田子 和則(日本みどりのプロジェクト推進協議会アドバイザー/棟梁 株式会社番匠代表取締役)

<「伝統建築技術と国産材」をテーマに特別講演があった>

・ご紹介いただきました田子でございます。日本みどりのプロジェクト推進協議会のアドバイザーで、伝統建築と林業木材活性化担当でございます。
・今から1430年前仏教とともに朝鮮半島や中国、大陸から移住した僧侶によって仏寺を建てる技術が日本に伝えられました。それらの仏教建築の多くは木造建築で、それまでの巨大な古墳に代わって権威や価値を示すものとなりました。
・寺院建築では、法興寺が発祥とされており、聖徳太子が摂政の時代で、聖徳太子は、四天王寺・法隆寺を建立しました。仏教を崇拝して大王を中心とした争いのない国づくりを目指していくと同時に日本各地に仏教を広める寺院が数多く建てられるようになりました。言い換えますと仏教信仰と寺院建築の工法を日本に伝えた人物が聖徳太子でございます。

・森林豊かな日本の建築は木造建築から始まっております。7世紀から8世紀初頭再建された法隆寺金堂が現存する世界最古の木造建築でございまして、世界遺産にもなっております。少なくとも1300年に亘って我が国の社寺及び寺院は一貫して木造建築で、日本の建築は木の文化と言えるでしょう。
・この時代木工に携わる職人方は「番匠」と呼ばれ、大工の親方が「棟梁」として定めたと言われております。ちなみに私も38歳の時に5代目棟梁から許しをいただき、1990年2月22日太子講の日に会社(番匠)を設立いたしました。
・森林管理なくして日本の伝統建築の継続はありません。今から1430年前に聖徳太子によって生まれた建築技術。約280年日本建築イコール木の文化であって、すべてが木造建築でありました。林の原木提供はもちろんこと目的の寸法に仕上げる加工、この製材技術や大工の加工技術が数寄屋建築の最も大切な伝統技術だと思っております。
・戦後、日本の住宅産業文化が大きく変わり、木材は外材に依存するようになり、日本の和の文化、住宅の文化、生活の文化が大きく変わりました。森林の国産化の活用が変われば林業が衰退することは間違いありません。しかし、林業に関わる就労者は絶対に減少させてはいけないと思っております。
・日本は世界に誇れる木の国であり、日本の国土は全て森林だったと思っています。日本に四季があり、森林は多種多様な木材を生産しております。家を建てる、建てないではなく国産材を使うことで心も生活も豊かになると思って、命ある限りこの森林再生に一生懸命頑張っていきたいと存じます。

*特別講演終了後、
日本みどりのプロジェクト推進協議会でアドバイザーをお努めいただいている岡本直之様から、我々一人一人が森は命の源であり、森林を大事にする気持ちを持って生活し、経済活動をすることが何よりも大切ではないかとのアドバイスをいただいた。

<本日のシンポジウム総合司会>
日本みどりのプロジェクト推進協議会/事務局
小川 浩司 (大阪観光局マーケティング事業部)

6.トークセッション:

<「豊かな森が生み出す産業へのファーストタッチ」をテーマに【第一部】では、取組発表、【第二部】では、パネルディスカッションが行われた>

【第一部:取組発表】

① 発表者:櫻井 知 (林野庁 森林利用課 山村振興・緑化推進室 山村振興企画班 課長補佐)
  テーマ:「森林サービス産業の推進について」

・林野庁で森林林業行政に携わっている立場から森林サービス産業の現状と課題について報告があった。
・まず、森林空間の特徴として視覚、聴覚、臭覚、触覚味覚の人の五感の作用する特徴があり、それによって人はリラックスしたり、ストレスが軽減されるという良い影響があること調査結果を元に紹介された。
・林野庁では幼少期から老年期のライフステージごとに仕事や学業などの仕事と日々の生活と余暇での両方のシーンにおいて、森林との触れ合いで文化的に楽しく心豊かに暮らすことを目指すライフスタイルをフォレストスタイルと名付け、この受け皿となるのが森林サービス産業であるという定義を述べられた。

・健康や観光、教育などの様々な分野で森林空間を活用した体験サービスを提供することにより、我が国が抱えている社会問題にも対応しているフォレストスタイルに貢献していくとともに山村地域に新たな雇用や所得機会を生み出すことができると説明された。
・最後に、森林や木材はSDGsとの親和性も高く、社会課題の解決に森林サービス産業の果たす役割は大きいが、森林サービス産業の創出にあたっては、体験サービスの提供者、宿泊飲食業者、森林所有者などの関係者が協力し地域一体となって取り組む重要性を強調された。



② 発表者:奥田 悠史 (株式会社 やまとわ取締役)
  テーマ:「森に関わる100の仕事をつくる」

・冒頭、「やまとわ」は、森をテーマに課題解決を目指す22名の会社で半分以上が移住者で、森の課題の先にある暮らしや生活を愛するように仕事に取り組む会社であるとの紹介があった。
・デザインとモノづくりの技術で森を変えていく、森と暮らしを近づけながらこの森と暮らしの循環が途切れないように森をデザインすること、暮らしをプランニングすることに活動の重点を置いているとの説明があった。
・農林業では、夏は農業、冬は林業で取り組んでおり、よく担い手が少ないと言われるが、二つの農の循環と森の循環を通じて農業や林業の担い手が仕事を楽しいと思える重要性を訴えられた。

・最後に、テーマである「森に関わる100の仕事をつくる」ためのファーストカレッジ事業について説明があった。日本の森が豊かであり続けるために、学び、遊び、考えようというのがファーストカレッジで、その中に地域の森の方々と地域外の人たちが混ざることで新しい発想を生み出す場をつくる中で、様々な組み合わせ(森×○○)で講座をしつつ皆さんの自分の中にある興味・関心を掛け合わせてビジネスを拡げていき、100の仕事を作り出したいと想いを述べられた。



③ 発表者:國岡 将平 (智頭ノ森ノ学ビ舎・事務局<兼>合同会社MANABIYA代表社員)
  テーマ:「“智頭ノ森ノ学ビ舎”の取り組み」

・冒頭、智頭町の全盛期人口は、15,000人いたが現在6,500人、全盛期約700人いた林業の現場従事者が60人にまで減ってきている実態について報告があった。
・智頭ノ森ノ学ビ舎発足には、森を切らない山、人を活かす山をつくるという理念と、智頭町にある百人委員会という直接民主主義制度を活用して町有森57haを借りて活動をスタートしたという背景の説明があった。
・事業規模としては、大きくなく環境に優しい比較的小さな機械システムを導入し、事業体同士のシェアリングシステムや共同作業等を進めることで林業家やオペレータ、特殊伐採技師が増えて林業内のインフラも整備されつつあり、これも緩やかな連帯という考え方の賜物と強調された。

・結局、林業の課題は林業だけでは解決できないので、智頭林業という言葉を大切にしたり、地域の人々に信用される人材を育てることが重要で、山という大きな教育ツールをフィールドにして智頭の山と暮らしの未来ビジョンを作ることを進めてきたと述べられた。
・最後に、最近都市の人がサステナブルと言っているが、本来は地方がサステナブルを考え、都市は責任を考えるべきで、地方に山があるだけでは価値がなく、都市がないと価値にならない、でも都市の人にも山が必要で、今後は都市と地方のパートナーシップが重要と強調された。

【第二部:パネルディスカッション】

・コーディネータ―:浅原 武志 (株式会社さとゆめ 取締役 長野支社長)
・パネラー:阿部守一(長野県知事)、溝畑宏(大阪観光局理事長)、奥田悠史(さとゆめ取締役)、
      國岡将平(智頭ノ森ノ学ビ舎/事務局<兼>MANABIYA代表社員)

*冒頭、パネルディスカッションのコーディネーターをお願いした株式会社さとゆめ取締役長野支店長浅原武志様より自己紹介ならびに「株式会社さとゆめ」の活動紹介があった。
・「さとゆめ」は、故郷の夢を形にすることをコーポレートミッションに、創業メンバー4名で信濃町で立ち上げたコンサル会社であるとの紹介がありました。
・「さとゆめ」のビジョンづくりだけではなくマーケティングも、販売も、自ら事業者としてもやる「伴走型コンサル」の活動事例(信濃町、山梨県小菅村、宍粟市)もあわせて紹介があった。

・最後に、今回のパネルディスカッションの内容について、地方で産業を作る議論になろうかと思うが、地方に仕事がないのは昔の話で、仕事があるのに人がいないのが課題で、関係人口を増やすことが本当の課題解決に繋がるのではないかとの問題提起をされました。

〇パネルディスカッション:

<コーディネータ―、パネラーの発言を掲載(敬称略)>

<浅原>森林サービス産業の中で林業は柱になると思いますが、その林業者として若者や移住者を育成されている中で、森に入ってくる若者のモチベートについて奥田さんと國岡さんに伺います。

<奥田>森に入りたい、森に関わりたい人はたくさんいる。特に、若い方の中で環境問題に興味があって森に関わる人が多い。今、木を切る林業にはお金がでるが、環境を守る林業にはお金が出にくいので、うまくマッチングすれば林業や森づくりのポテンシャルが広がる。

<國岡>最近、山に入る若者には、3種類ある。一つはチェーンソーとか機械好き、もう一つは体を動かしたい人、三つ目は環境に関わりたい人。

<浅原>長野県の林業を増やしていく政策として特徴的なところは、阿部知事いかがですか。

<阿部>長野県の場合、移住したい人たちが結構いる。そういう人たちに農業や林業を仕事の場として意識してもらうことが重要。長野県も今年の予算で森林サービス産業にしっかり取組んでいこうと思っている。奥田さん、國岡さんの話と共通して単に木を植えるだけの林業ではなくて暮らしや他の分野と繋げていくことが極めて重要で、今までのいわゆる林業の単体で業とするのではなく、広がりを持った産業として林業を捉えていくことが必要で一人多役の社会を作っていきたいと考えている。

<浅原>まさに林業だけでなく暮らしの中に。林業+α、林業+農業といった感じですね。さて、長野県は森林県で森林セラピー基地が10カ所あり、森林を観光資源として使うことも考えられますが、観光に対するポテンシャルについて溝畑理事長いかがでしょうか。

<溝畑>私自身、森に行くと「楽しい」、「気持ちいい」、「色々なものに会えて嬉しい」、「健康にいい」という幼少期からの体験があるので、国立公園などの規制緩和を促し海外では定番のトレイルランなどのスポーツアクティビティを海外に売り込みたいと考えている。特別講演で田子さんからお話があったが、

この国が世界に誇れる何千年の歴史で繋いだ森の文化、里山文化を世界に発信していきたい。その場が2025大阪関西万博で、そこで林業のイメージを一気に世界でも最高の産業としての見せ方をしていきたい。

<阿部>森林資源をどう使うかという時に教育の場とか学びの場は非常に重要で、ビデオメッセージで平井鳥取県知事の話がありましたが長野県も自然保育を進めています。そこで子供を育てたいということで移住してくる人たちが多い。それは、森の魅力、森林の魅力が移住者を惹き付けている典型的な例ではないかと思います。

<浅原>本当に森林・林業に対する教育といったものが我々の世代の時にはすごく少なかったと思っていて、弊社の社員からも子育てに森が関われるということが移住の理由としても大きいと聞くと、森の幼稚園のようなものが広まっていくといいのではと思います。智頭ノ森ノ学ビ舎では、森の幼稚園とコラボレーションされてますか。

<國岡>地図の森の幼稚園も直接民主の百人委員会でお母さんが智頭の自然の中で保育してみたいというところから予算化されて2010年から始まった事業です。私たちの団体でも2割から3割ぐらいは森の幼稚園のお父さん、お母さんが会員になっていて、薪ストーブとか火のある暮らしがしたいとなると、薪を取りになどの暮らしのサポートをしています。

<浅原>奥田さんに聞きたいのですが、林業+αの中で、林業は冬場に、農業は夏場にという掛け算の仕方は素晴らしく新しい産業に繋がると思いますが、発想に至った経緯は何ですか。

<奥田>僕らは、事業を作る時に合理的合理性を重視している。経済合理性は、経済にとっての筋道が通っているかで人のことが割となくなってしまう。昔から農家林家と言われたように、昔から合理的な選択は地域にたくさん残っている。林業+αを考える時、どちらかに無理があると続かない。常にお互いに気持ちいい自然の流れの中で仕事を作ることを心掛けています。

<浅原>全く新しい掛け合わせではなくて、いわゆる暮らしの中で培われてきた歴史や効率性を含めて考えるということですね。國岡さんに聞きたいのですが、農業も林業も大規模化にいきがちですが、それを選択せず小規模で成り立たせる林業を目指すという発想、そこでの苦労とか混乱はありましたか。

<國岡>今までの資本主義は労働資本を増やして所得を上げようとするが、人口が減ると一人あたりの自然資本が増える。一人当たりで住宅密集地に住むよりも、一人当たりに田畑や山がついてきた方が暮らしが豊かになると思っています。

智頭は、小規模の林業をやりたい、環境に気をつけてやりたいという同じ志を目指す人が集まってきています。日本は、生産性ではなく価値の向上に目を向けるべきではないかと。木を切らずに価値をどう作るかという問いが重要で、それを進めていこうとする時に、新しい発想や新しい企画が生まれてくると思います。

<阿部>お手元に長野県の総合計画が配られていると思いますが、その中に基本的なキーワードがあって宇沢弘文先生が提唱された「社会的共通資本」という概念を入れました。例えば、自然や教育などは市場的な価値だけでは測ってはいけないということです。日本の発展は、お金が儲かるところに人が集まり、少しでも利益をあげようとしてきましたが、そろそろもう一回立ち止まらなければならないのではないか。教育にしても医療にしても、あるいは農業であったり、林業であったり、単にお金が稼げる量が多いという量的な価値だけでは測っては決していけない分野だと思っています。

そういう意味でお二人のお話には共感しています。グローバル社会の中で、世界で稼ぐという視点は大事ですが、足元の価値を棄損して無駄にしながら世界の方に目を向けていると、私たちの文化や暮らしを著しく損なってしまうのではないか、その意味からも地域内でどうやってお金を回す仕組みを作れるかにチャレンジしていきたい。

<浅原>私が、信濃町の癒しの森事業を始める時も足元の自分たちの自然が誇れるものということを認識するところから始まりました。CWニコルさんが、「日本の森はすごいし、北に流氷が見れて、南でサンゴが見れる。こんな国はないよ。」と言われ、我々もすごい誇りを持つ事ができました。先程法隆寺のお話も出てきましたが、日本の価値である伝統文化も凄いと思います。インバウンドの傾向、地方の可能性について、溝畑理事長いかかですか。

<溝畑>まず、量から質への転換が大きなテーマになっていて、やはりモノ消費からコト消費へ。そこにある参加交流ですね。特に、中国も団体旅行から個人旅行に移っていく中で個人の方が、オンリーワン、自分固有の希少性のある体験をしたい。そこには地域の独自性が大きく関わってきます。アフターコロナで一気に観光客が増えていく中で圧倒的に自然に対するアクティティビティやツーリズムの人気が高まると思います。大都市から地方へ、地方の個性をいかに表現し観光に繋げるかが、今後の大きな課題であると認識しています。

<浅原>森林資源を使って、長野県がどれだけの人を呼んでくることができるか。インバウンドも含めて長野県の観光の方向性について、阿部知事のお考えを聞かせてください。

<阿部>長野県の強みの一つは美しい景観や自然なので、それらを活かしたアウトドアをしっかり根付かせて、山ノ内町をはじめとする冬のリゾート等アウトドアを楽しんでもらえる場所にしたい。もう一つは文化。日本の強みはオリジナリティの高い文化、やはり木と森の文化なのでそれを全面に出していきたい。日本みどりのプロジェクト推進協議会会長の立場からも話させていただくと、日本ほど四季があり、森と豊かな水に恵まれている国は他にはない。日本全体でもう一度、この木と森の文化をしっかり見直して、そこにどうやって新たな価値を加えていくのかをしっかり考えることが必要であると思う。

<浅原>ありがとうございます。今日は、いろいろなキーワードが出てきました。若手の林業者を増やすためには環境という要素が必要とか、日本の文化・カルチャーを見直してそれを林業につなげるとか、森林サービス産業は人を呼び込むことにつながるなど。ここで最後に一言ずつ抱負というかこれからの活動についてお話いただいて、パネルディスカッションを終わりたいと思います。

<奥田>森の価値をすごく感じている6年間でした。我々がもう一度見直さないといけないのは、地域、地域にある森林資源とか暮らしの中に育まれたものが観光でも産業でも重要になってくる。森について語るときには、課題のことを話し合うと煮詰まってくるので、それより先にどんな未来をつくるのか(森づくりということがどんな未来をつくるのか)という議論からスタートしたいと思っています。また、皆さんとも議論したいと思います。

<國岡>林業を業とするのは厳しい。人とコミュニケーションできて初めて木の価値になる。コミュニケーションをするのをやめるとただのマテリアルにしかならない。林業木材が単なるマテリアル産業になってはいけない。山の真の価値はコミュニケーションでしか生まれこないと思うので、もっと海の人とか様々な人とコミュニケーションを取っていきたいと思っています。

<溝畑>未来に向かってこの国が地方中心に元気になっていく。その源が緑であると思っている。緑というのは、単に観光とか林業という狭い分野にとどまらず、この国を復活させる起爆剤で、その意味からも日本みどりのプロジェクト推進協議会は骨太のプロジェクトであるということを国民の皆さんに知っていただく必要があると痛感している。我々のミッションは、国民から世界皆をOneGreenで全てを繋げていけるよう世界に発信していきたい。

<阿部>やはり日本は素晴らしい。実は、我々日本人が日本の良さに気づいていないのではないかと思っています。そういう意味で奥田さんと國岡さんが、森林に着目し新しい形で森林を活かした活動、森林を守っていく活動に取り組まれている素晴らしい事例を発表いただき勇気をもらえた。この日本みどりのプロジェクト推進協議会でも、もう一度日本全体で森林の価値を見直して、歴史や文化もしっかり学びながら未来を新しい形で作っていく方向付けができたのではと思っている。県知事としても会長としても頑張っていきたい。

<浅原>ありがとうございました。これでトークセッションを終わらせて頂きたいと思います。

5.閉会挨拶:
金井 伸樹(日本みどりのプロジェクト推進協議会事務局長 /長野県観光部長)


・皆様、長時間大変お疲れ様でした。
・今回の第4回シンポジウム“森を知るシンポジウム”をきっかけにしまして。さらに緑を通じた取組みが活発になることを祈念申しあげまして、日本みどりのプロジェクト推進協議会主催「第4回シンポジウム」を閉会いたします。
・本日は、誠にありがとうございました。

*シンポジウム終了後、「美湯の宿」にて31名が参加して「会員交流会」が開催された。


【2日目(ABMORI)】
〇日 時:令和5年6月25日(日) 8:30~12:30
〇場 所:山ノ内町/志賀高原(笠岳エリア)
〇参加者:30名

・8:15(長野電鉄湯田中駅前集合)
・8:30(出発)

・9:00(志賀高原総合会館98到着)
・9:30(「ABMORI開会式典」参加)











・10:00(「ABMORI」植樹参加)
















・12:30(解散式)





2023.07.13

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